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忘憂ノート

社会学・教育社会学や社会科指導について。趣味のことも。

農山村は消滅するのか?

『農山村は消滅しない』 著:小田切徳美

農山村は消滅しない (岩波新書)

農山村は消滅しない (岩波新書)

 2040年までに896の日本全国の市町村が消滅可能性或いは消滅する、ということで日本社会に衝撃を与えた増田レポート。20歳~39歳までの女性人口が2040年に現状の半分以下になると「消滅可能性」、2040年に1万人を切ると「消滅」ということを元岩手県知事増田寛也氏が特別な方法を用いて予想。増田レポートが公表されたあと、「農村たたみ論」を推進して各地方に中核都市を作って若者の都市部流出を防ぎましょうということが各界で提案されています。いわゆる「選択と集中」です。

 農学者小田切徳美氏は、この本のタイトルどおり増田レポートに反論しています。その理由としては、農山村は「人の空洞化」「土地の空洞化」そして「むらの空洞化(集落限界化)」という三つのプロセスを経て消滅するが、むらの住民の極端な高齢化や自然災害によるむらの維持機能が急激に低下する「臨界点」が訪れるまではむらはなんとか維持しているとしています。そういうわけで、増田氏が指摘するようにそう簡単に消滅するわけではないそうです。

 また、はやくから危機感を抱いたいくつかの市町村は人口減少の対策と地域振興に注力しており、その成果も出始めているとか。その事例として中山間部、おもに中国地方の市町村の取り組みが本書で紹介されています。どれも住民の「内発性」によるもので、外部資本の誘致による外来型開発に依存しない地域振興をしており、こういった市町村独自の取り組みに対しての支援をどうすべきか?ということが論じられています。

楽観論?悲観論?

 どうでしょう。ぼくはどちらの見解も問題点があるとは思いましたが、極端にどちらが正しいともいえないです。日本の急速な少子高齢化、それに伴う農山村の人口の社会減はまぎれもない事実であります。しかしそれが2040年までに「消滅可能性」「消滅」という結論になる具体的なことが論じられていないということ、そして2011年以降都市部に暮らす若者が「田園回帰」の傾向があり、こうした動向を軽視しているとして、増田氏に反論しています。このふたつの小田切氏の反論は一理あるかと思います。
 でも、小田切氏の見解はあまりにも楽観的なようにも思えます。先にみたように農山村の消滅までのプロセスや、強靭性は本書でも論じられており、現地に出向いて調査しているため農山村の現実を本書を通じて知ることが出来ます。この点はさすがフィールドワーカーです。
 問題点としてあげるとするならば、先に見たような住民の内発性を基にした地域振興が今後どれだけの自治体で実現できるのかということです。まちおこし協力隊や支援金など、住民の内発性を損なわない行政支援は現在でも全国的に展開されていますが、そういった行政支援にかかるコストの問題が本書では語られていないので、あまりにも楽観論で現実的ではないというのが私の感想でした。